徒然なるままに

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事件簿のエッセンスを剥離城アドラに見た!

 ロード・エルメロイⅡ世の事件簿全十巻読了。
 三田誠先生という愛情に溢れた作家が、ウェイバー・ベルベットのその後を描いてくれたことがファンとしてとても嬉しい。

 今回は、第一巻Case.剥離城アドラとその音楽劇について述べる。
 第十巻巻末で、Fateの生みの親である奈須きのこ先生が剥離城アドラの初稿を読んだ段階でシリーズ化を提案したとあるように、この巻にはエルメロイⅡ世の物語にまつわるエッセンスが凝縮されている。
 舞台はさらにZeroの描写も含まれているので、イスカンダルとウェイバーの物語を知りたい方にとって一番手を出しやすい作品かもしれない。

 

 

 

 

原作について

 

  • 魔術師と一般人の倫理感の違い

 魔術師の目的は真理の探求であり、その神秘が秘匿される限りにおいて人命や人権には重きを置かない。その点で魔術師と人間は相容れない倫理観を持つのであるが、その双方を持ちながらなお邁進するⅡ世は魔術師の中では非常に異質な存在である。
 そしてそれこそが、他の教室で浮いていた生徒たちがエルメロイ教室に集まり馴染めた理由であり、Ⅱ世の周りに人が集まる所以でもある。
 生徒の大成は、Ⅱ世のたゆまぬ研鑽による知識量に加え、魔術の構成そのもの以上に、その奥にある人を見ることに類まれなる才能を発揮する彼の観察眼によるものである。

  • 舞台版の補足

 舞台版は時間が限られており、観客にわかりやすいように、余計な説明やシーンの省略などが行われている。原作を読んで気づいた点を一応挙げておく。

  • エーデルフェルトの魔術について

 Ⅱ世が魔術の本質について語る際、原作では舞台版よりもさらに踏み入った部分まで語られていたため、ルヴィアは止めに入っている。

  • Ⅱ世の性格描写について

 ハイネが亡くなった時点では、Ⅱ世はちゃんとロザリンドの心情に配慮している。その後魔術式の分析という過程に入るが、短縮された結果空気を読まない魔術バカな側面が強調される結果となっている。

  • ルヴィアとの接続について

 魔術回路に接続することは、干渉された側(ルヴィア)に主導権があるため、Ⅱ世の行動は心臓を差し出したのと同義であり、だからこそ、彼女は彼を信頼するに至ったのだろう。


舞台について

  • 演技力

 アニメ魔眼蒐集列車や漫画版で、いくつかのキャストには頭の中ですでに音声がついていたが、それに違和感を覚えさせない役者陣の演技が素晴らしい。
 それぞれのキャストがはまっていたが、Ⅱ世とグレイのほか、化野菱理、オルロック・シザームンド、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの声音はゾクゾクするほど素晴らしかった。
 最後の挨拶でルヴィア役が玉置成実さんだと知り、ガンダムSEEDを見ていた者として、演技の面でも才能があったのかとその多才ぶりに大変驚いた。
 貴族として気品のあるセリフの数々、「まかりこした次第」など印象的な発声が今でも耳に残っている。
 舞台では所作一つ一つが感情表現となるため、オルロックが獣に手を伸ばしたシーンでは指先から愛しさが溢れ出ているようであった。

  • 舞台構成

 音楽劇という形式で、新しい世界観を見せてもらった。
 プロジェクションマッピングを魔術の表現に用いるという手法も面白く、とりわけ形態が変化するトリムマウなどは舞台映えがした。

  • 楽曲(曲名不明のため仮称)

 2020年6月発売予定のBlu-ray・DVDには、アニメイト特典で劇中曲のCDがついてくるので、予約される方は断然こちらがオススメです。
 10曲ほどの劇中曲のうち半数は、原作の文章に音を割り振る形で忠実に作成されていて、おかげでグレイの祈りの場面などは確認が容易であった。
 残りの半数は、オリジナルの歌詞で彩られており、それぞれに原作のエッセンスが込められていて大変良かった。
 特典で題名と歌詞を確認するのが楽しみであるが、現時点では印象的な側面をピックアップして仮称することとしたい。

  • working for ten years(第一幕冒頭)

 Ⅱ世が第四次聖杯戦争後の10年間どうやって過ごしてきたかを歌い上げる。
 物語の背景を音楽によって簡潔に示すことができるのが、音楽劇の醍醐味。


 「あの景色を追うから休めやしない
  ただひたすらな working for ten years
  朝も昼も夜も夢も」

 この「朝も昼も夜も夢も」という部分は、クライマックスの曲への布石となっている。

  • それぞれの思い(第一幕最後)

 化野菱理が殺害されて、事件が顕在化するシーンで前半の幕が下りる。
 登場人物それぞれのキャラクターが浮かび上がる歌詞となっている。
 法政科という「秩序」を失い、俗世の倫理など通用しない魔術師たちの中で遺産を巡る殺人が始まることが示唆され、惨劇(グランギニョル)の幕が上がる。

 冒頭もそうだが、ライネスとエルメロイ教室の双璧(スヴィンとフラット)というキャラを配置することで、Zeroを見ていない観客にも設定を効果的にわかりやすく説明できている。
 なにより、動く双璧が見れて単純に嬉しい。
 話によると、日に日にフラットの地滑りは飛距離を伸ばしていたそうだ。
 「知恵と力の~“エルメロイ教室”」のくだり、めっちゃいい声。
 FakeでⅡ世の荷物からサーヴァントを召喚するフラットが、Ⅱ世が聖遺物を先代から盗んだことを揶揄するシーンも面白い。

  • 最果ての海(クライマックス)

 事件簿はこのシーンがあってこそ!
 泣ける!!
 FGOから入って、まだZeroを見る前の私は、この一連のセリフをwikiで読んで号泣して沼に落ちたのです。
 通常は魔術刻印を蝕む効果を持つ天使の歌だが、Ⅱ世には魔術刻印がないため直接精神に働きかける作用をもたらしたというのは原作を読んで知ったことだった。

 原作の文章だけでも十分すぎるほど感動的なシーンに、Zeroのライダーとの約束を盛り込みわかりやすくし、我が王イスカンダル(CV大塚明夫)も出演、なおかつⅡ世の美声で歌い上げられたたらたまったものではない。
 号泣不可避。配信期間中何度も繰り返し観た。
 原作ではⅡ世の姿がウェイバーに変化する箇所を、二人の役者で構成してあり、「あなたこそボクの王だ」と述べるシーンでは、役者の瞳が潤んでいて大変良かった。


 「朝も昼も夜も夢も 蔑んでく
  過去は今も呪い呻き 嘲笑ってる
 
  あなたから貰った栄誉が
  抜けられない夜空照らす光
  濃霧の中息が苦しい
  声が刻みつけられた魂

  真に尊い手を取れるか
  今は真に尊い生き様か
  胸に描いたあの潮騒
  卑屈とは覇道の兆しだから
  足掻くよ 高みを目指し」

 よくぞこんな素晴らしい歌詞を書いてくれました!
 Ⅱ世は後払いで貰った栄誉に報いるため、我が王に比肩するにふさわしい男であるために、精一杯足掻いて生き抜くことを決めたのです。

  • 根源の渦(フィナーレ)

 魔術師の最終目的は「根源の渦」に至ることである。

 それに手を伸ばさないのは魔術師の中では稀有なことであるが、有能な魔術師である化野菱理は能力があるが「目指さない」、Ⅱ世は能力がなく「目指せない」と大きな隔たりであり、それは交わることのない短針と長針のようなもの。
 しかしだからこそ彼らは魔術を目的ではなく手段として扱うことができるという点は共通している。
 魔術は神秘を秘匿することを旨とするが、Ⅱ世は誰よりも魔術にのめり込んでいるがゆえに、逆にそのベールを剥がす破壊者となりうる。

 「届かない夢見る」とは、彼にとっては根源の渦であろうか、それとも最果ての海であろうか。